ザイゴマインプラント(頬骨インプラント)と翼状突起インプラント
あごの骨量が十分にある患者様の場合、インプラントはあごの骨に埋入しますが、あごの骨が少ない方は通常のインプラント手術が困難です。
上顎の骨が少ない方にインプラント手術を行う方法はサイナスリフトやソケットリフト等の骨造成術の他に、ザイゴマインプラントと翼状突起インプラントがあります。
骨造成術は「足りない骨を作る方法」で、ザイゴマインプラントと翼状突起インプラントは「骨がある所にインプラントを埋入する方法」です。
上顎の骨が著しく吸収されている方に適用されます。
当院ではいくつかの理由で翼状突起インプラントを推奨していますが、それぞれについてご説明いたします。
通常インプラント・ザイゴマインプラント・
翼状突起インプラントの選び方
即時負荷を行う場合、上顎の骨があるかどうかで施術方法が変わってきます。
上顎の骨が足りない場合は、ザイゴマインプラントや翼状突起インプラントでの対応が検討されます。
当院では、臼後結節に骨がある場合には、より低侵襲な翼状突起インプラントを推奨しています。
ザイゴマインプラント
1)ザイゴマインプラントとは
ザイゴマインプラントとは、上顎の骨が非常に薄く、通常のインプラント手術が難しい場合に選択されるインプラント手術です。通常のインプラントを埋め込む骨の代わりに、頬骨(ザイゴマ骨)にインプラントを固定する方法です。これにより、骨が不足している場合でもインプラント治療が可能となります。
2)ザイゴマインプラントと通常のインプラントの違い
ザイゴマインプラントは、顎の骨が極端に少なく、通常のインプラントやオールオン4の手法でも対応できないケースに適用される治療法です。
通常のインプラントは、顎の骨にインプラントを埋め込む方法です。上顎の骨が不足している場合は、骨造成を行い骨の量を増やしてからインプラント手術を行うことが一般的です。
しかし、頬骨を活用することで、骨造成を行わずにインプラントを埋め込むことが可能になります。
頬骨は非常に堅固で、インプラントをしっかりと固定するのに適した場所です。
この手法では、通常より長いインプラントを2本または4本、頬骨に埋め込みます。これにより、インプラントがしっかりと固定され、その上に人工歯を装着することで、しっかりと噛むことができるようになります。
3)インプラント体の長さ
長いインプラントを使用する
上顎に埋入する通常のインプラントの長さは8-18㎜ですが、頬骨に埋入するザイゴマインプラントの長さはは35~55㎜です。
歯肉から頬骨までの距離が遠い為に、ザイゴマインプラントでは5センチほどの長いインプラントを使います。この為、術後、頬を指で押すと埋入したインプラントに触れる事があります。頻繁にその部位を触ることによって、顔の皮膚や口腔内粘膜が破れてしまう事があります。
4)ザイゴマインプラントのメリット
①治療期間が短い
上顎の骨が足りない方の従来のインプラント治療方法は骨移植、骨造成術ですが、どちらも骨が出来るまで数ヶ月、待つ必要があります。
ザイゴマインプラントは骨が出来るのを待つ必要がないので、この数ヶ月を短縮できます。
②治療回数が少ない
骨移植、骨造成術で必要な骨を増やす治療を行わないので治療回数も少なくなります。
5)ザイゴマインプラントのデメリット
①手術時間が長い
通常のインプラント手術と比較して、ザイゴマインプラント手術時間は120分程と長くかかります。手術では上顎の歯肉を切開して頬骨まで剥離し、露出させた頬骨に目視でイン
プラントを埋入する為に、手術時間が長くなります。
その為、手術は静脈麻酔下で行います。
②失明のリスク
5cm以上もの長いインプラント体を斜めに埋入していくため、埋入する角度が1度でもずれるだけで最終的な埋入位置に大きな誤差が生じます。
頬骨を突き破ると、失明するリスクがあります。
③術後の腫れ
切開する傷口が大きい為、手術後にかなり顔が腫れ、痛みや青あざも生じます。
6)ザイゴマインプラントのトラブル
①上顎洞炎
頬骨に埋入したインプラントは上顎洞を通っている為、手術後、感染を起こして上顎洞炎になる事があります。抗生剤を服薬しても改善しない場合、インプラントを撤去しなけれ ばならない事もあります。
②喋りにくさ
5cm以上の長いインプラントを埋入する為、インプラントが歯肉から出る位置が本来の歯より内側になります。この為、本来の歯並びと違いが生じて喋りにくさ、食べにくさを感じることがあります。
以上の様に、ザイゴマインプラントには様々なデメリットやトラブルがあります。この為、当院ではザイゴマインプラントを推奨していません。代わりに低侵襲な翼状突起イン プラント をご提案しています。
翼状突起インプラント
1)翼状突起インプラントとは
翼状突起インプラントとは、蝶形骨の翼状突起板に埋入するインプラントです。蝶形骨とは上顎の奥にある骨で、翼突口蓋窩の方向にインプラントを埋入します。上顎の骨が少な くて通常のインプラント手術が不可能な症例で、骨造成を回避したい場合に適用します。
2)インプラント体の長さ
上顎に埋入する通常のインプラントの長さが8-18㎜で、翼状突起インプラントは15~20㎜です。35~50㎜のザイゴマインプラントに比べると、通常のインプラントとほぼ同様の長さと言えます。これは歯肉から翼状突起板までの距離が歯肉からザイゴマ(頬骨)までの距離よりも短い為です。
3)翼状突起インプラントのメリット
ザイゴマインプラントと同様のメリット①②の他に、ザイゴマインプラントにはない③~⑤のメリットがあります。
①治療期間が短い
ザイゴマインプラントと同様に、骨が出来るのを待つ必要がないので、骨移植や骨造成術に比べて数ヶ月間、短い治療期間となります。
当院では手術当日に仮歯装着も可能で、最終の補綴物装着まで4ヶ月程度です。
②治療回数が少ない
骨移植、骨造成術で必要な骨を増やす治療を行わないので治療回数も少なくなります。
当院での治療回数は、初回のカウンセリングを含めて4~5回です。
③手術による侵襲(傷)がザイゴマインプラント、サイナスリフトに比べて少ない。
ノーベルガイドを利用することで、メスで切開しないフラップレスな手術が可能です。傷口が極めて小さいので、術後の腫れや痛みが少ないです。
④手術時間が短い
当院では1本20分程度です。
手術時間が短いので身体への負担や感染リスクも少なく、術後の回復も短時間になります。
⑤噛む力が強い
ザイゴマインプラントでは5番、6番(第二小臼歯、第一大臼歯)までの部位にしかインプラントを埋入できませんが、翼状突起インプラントは一番奥の7番(第二大臼歯)の部位に埋入できますので、奥歯でしっかり噛めるようになります。注) 8番は親知らずです。
⑥術後も歯の位置が変わらない
ザイゴマインプラントではインプラントが歯肉から出る位置が本来の歯より内側になる為、喋りにくさ、食べにくさを感じることがあります。
翼状突起インプラントでは、本来の歯と同じ位置にインプラントを歯肉から出す事が出来ますので、よりご自分の歯と同じ使用感が得られます。
4)翼状突起インプラントのデメリット
①経験と技術が必要な手術ですので、治療を行う歯科医師が限られます。
翼突口蓋窩の近くにある神経や静脈などを傷つけない様に手術を行う為には、口腔外科の知識に基づく技術と豊富な経験が不可欠です。
当院ではCT撮影による綿密な手術計画と、院長が開発した特殊な器具を用いる事によって安全に翼状突起インプラントを行っています。症例数は数十例に及びますが、神経や静脈などの組織を傷付けた症例はありません。
5)翼状突起インプラントのトラブル
①通常のインプラントと同様、骨とインプラントが結合しない事があります。
②通常のインプラントと同程度の術後の腫れ、痛みがあります。
③血管の損傷による腫れ
6)翼状突起インプラントの当院の症例
60歳代 ⼥性 インプラント(上顎6本)
術式; 翼突⼝蓋窩(上顎結節・翼状突起部)を利⽤したノーベルガイド、オール・オン6、即時負荷
一般的に上顎洞周囲の骨量が少ない場合には、眼下の頬骨弓を露出させるザイゴマインプラントを行う事がありますが、当院では手術による傷口が少ない翼状突起インプラントを選択する事が多いです。
CTによってノーベルガイドを設計して血管が密集している危険部位を避け安全に低侵襲でインプラントを埋入します。
またザイゴマインプラントでは不可能な第二大臼歯を作る事が出来ますので、しっかり奥歯で噛むことができます
《翼状突起インプラントのメリット》
◎ザイゴマインプラントより傷口が小さいので痛みが少なく、回復が早い。
◎ザイゴマインプラントよりも奥歯でしっかり噛める。
インプラント | 60歳代 女性 |
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主訴 |
残根上に総義歯を装着しているが、会話や食事が不自由である。 |
治療内容 |
【上顎】 |
治療結果 |
メンテナンスに継続して来院頂き、⼿術後15年以上経過していますが、インプラントの状態は良好です。 |
治療期間 | 7ヶ月 |
治療費用 | 上顎 300万円(税込) |
リスク | 術後の痛み、腫れ。 |
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術前 上顎
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最終補綴物 正面
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ノーベルガイド
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初診時 レントゲン
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治療後 レントゲン
術後15年以上が経過していますが、インプラントの状態は良好です。
ザイゴマインプラントと翼状突起インプラントの比較
翼状突起インプラント | ザイゴマインプラント | |
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可能な部位 | 一番奥の歯(7番第二大臼歯) | 一番奥から2、3本目 (5番第二小臼歯、6番第一大臼歯) |
術後レントゲン(上顎)の一例 | ||
ノーベルガイドの利用 | 可 メスで切開しない |
不可 メスで切開する |
傷口の大きさ | 小さい | 大きい |
手術時間 | 短い | 長い |
麻酔 | 局所麻酔 (通常のインプラントと同じ) |
静脈麻酔 |
リスク | 腫れ、痛み | 腫れ、痛み、上顎洞炎、失明 |
術後の感染リスク | 通常のインプラントと同程度 | 高い インプラント体が骨と粘膜の間に位置するので感染症を起こしやすい。 |
歯肉からインプラントが出る場所 | 本来の歯と同じ | 本来の歯より内側なので喋りにくい事がある |
インプラントの長さ | 8~20㎜ | 35-55㎜ |
いのうえまさとし歯科医院へのアクセス
京都市営地下鉄烏丸線「北大路駅」より徒歩20分